"Avec le pinot noir, c’est plus une question de coeur que d’espoir."

—Kichi Le Renard

（実は僕、ちょっとフランス語もできるんだよ！）

深い森の地面に生える下草、松葉や球根、土の香りのするキノコ、そして細かい毛が太陽に輝く野生のベリー。

まるで雨粒に打たれたかのように湿った僕の鼻が、喜びに震える瞬間。

ワインを愛するみなさんもきっと、わかってくれるんじゃないかな。

毎日のように森の中を歩き回っている僕たちキツネが、こうした香りからピノ・ノワールを思い出さないわけがないってことを。

最も古いブドウ品種の一つ　ピノ・ノワールの歴史

何千年も前にケルト人とローマ人によって植えられたピノ・ノワールは、実は現存する最も古いブドウ品種の一つなんだ。

フランス語で「ピノ」は「松」、「ノワール」は「黒」を意味する。

ピノ・ノワールの房を、一度キツネになったつもりで下から見上げてみてごらん。ぎっしりと詰まった実が、まるで松ぼっくりのように、クリスマスの飾りのようにぶら下がっているのを見ると、その名前の由来がよくわかると思うな。

なんともかわいらしいそのブドウの姿に、思わずにっこり笑ってしまうんだ。

スパイシーで肉厚なオールドワールド（ヨーロッパ）のピノ・ノワールから、ピーチやレイニアチェリーの繊細な風味があるニューワールド（ヨーロッパ以外の地域）のピノ・ノワールまで、このブドウから作られるワインには多彩な味わいがある。

ピノ・ノワールが王侯貴族や聖職者のブドウとされてきたのも、この理由からだよ。

ベネディクト派の修道士たちが、この素晴らしいブドウを完璧に近い状態まで仕上げたんだ。

ピノ・ノワール＝ワイン界のプリマドンナ

ピノ・ノワールを別の言葉で表すとしたら、これがぴったりじゃないかな。

「プリマドンナ」---イタリア語で「第一の女性」という意味で、オペラのヒロインを指すんだよ。

この言葉の通り、ピノ・ノワールはとっても貴重で、そして気まぐれなんだ。

気温に敏感で（寒いところを好む）、収穫が少しでも遅れたりちょっと暑い地域に植えたりしようものなら、たちまち腐ってしまう。

つまりピノ・ノワールを扱うには、ものすごい努力と献身、そして経験によってしか得られない技術が必要なんだ。

他にはない完璧なものを作り出そうとしたら、どんなものでも同じだよね。

そして、うまくいったときはどうなるかって？

想像しただけで、興奮のあまりしっぽが震えちゃうよ！

ピノ・ノワールの魅力

では、ピノ・ノワールの魅力とは何なのかな？

人間がピノ・ノワールのことを最高のワインを造ることができるブドウだって言っているのは、大げさすぎると思う？

キツネの立場から言わせてもらうなら、ピノ・ノワールは最高級の賞賛に値することもあるし、聞くに堪えないような罵倒を受けてしまうこともある。

うまくいけば、まるで天国のワイン。

うまくいかなければ、ぼんやりとして退屈きわまりない味になってしまう。

ピノ・ノワールでうまくいくためには、多くの段階があるんだ。

第一段階は、栽培者が正確に育てられるかどうか。

第二段階は、醸造家がピノ・ノワールの多彩な味わいをうまく引き出せるかどうか。

第三段階は、飲む人がワインに魔法をかけられるかどうか。

「飲む人がワインに魔法をかける」だって？と不思議に思うかもしれないね。

僕に言わせれば、ピノ・ノワールはまるで海にいるタコみたいに、急に近づくと逃げてしまう。

もちろん、飲む人がワイン好きだってことは大切だよ。

でも、ピノ・ノワールように繊細なブドウは、「ワインがあなたを好きになる」ことも同じくらい大切なんだ。（え？まるでキツネにつままれたようだって？）

だからもし、恥ずかしがり屋のピノ・ノワールが最初はあなたに近づこうとしなくても、気にしないで。

まずは、その姿をよく観察してみてほしい。

ピノ・ノワールを飲むときは、心を開かせる方法を知っておく必要があるんだ。

間違った方法でアプローチすると、また引っ込んでしまうからね。

じゃあそのコツを教えるね。

ピノ・ノワールの味わい方

栓を抜いたら、ピノ・ノワールに30分ほどゆっくり呼吸させてあげてほしい。

それからグラスの中で優しく揺らし、飲んでもいいですか、と問いかけるように軽くお辞儀をしてから一口飲んでみて。

シルキーで豊潤なボディが口の中で広がって、ピノ・ノワールを味わうために永遠に生きたいと思わせてくれるはずだよ！

そしてこのことを忘れないでほしいんだ。

ピノ・ノワールは味を期待する以上に、あなたの心が何を受け取るかだということを。

じゃあ、またね！