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Kichi's Journal吉のワイン⽇記

2023/06/04

シャルドネ 〜詩人のワイン〜

吉 Kichi

ワインを造り、世界中のワインについて学び、そしてワインをこよなく愛するキツネの吉だよ。
世界中のすばらしいワインをみんなに知って欲しいと思っているんだ!
このブログでは、ブドウやワインのこと、生産国や歴史について、僕が知っているちょっとした豆知識を紹介していくね。

ワインの醸造家
エキスパート

ワインをよく知らない人でもよく聞く「シャルドネ」という白ワインに使われる品種。今日はそんなシャルドネについて思いを馳せてみたよ!

"... Là, tout n'est qu'ordre et beauté, luxe calme et volupté.".

 Les Fleurs du Mal(悪の華) -Charles Baudelaire(シャルル・ボードレール) より

 

 

『Les Fleurs du Mal(悪の華)』は、シャルル・ボードレールが1870年に発表した詩集のタイトルだよ。

その中の一篇『L'invitation au Voyage』で、ボードレールは一人の美しい乙女に一風変わった招待をしているんだ。

ボードレールはこの詩を通して、ダンスでもなく、川辺の散歩でもなく、パーティーでもなく、祈りでもなく、こうしたことすべてが同時に、そして永遠に可能である非公開の場所へと、恋人を手招きしている。

それは、あたたかいサラサラの砂を足の指の間に感じられる安全な場所から、漂流者に手を振る島民のようなものであり、一瞬のうちに結晶化した希望のしるしでもある。

『L'invitation au Voyage』は、心配事が過去のものとなり、恋人たちがあらゆる種類の醜さ、苦しみ、ストレスや不安から守られ、一切れのパンを得るための喧騒から免れる場所への輝かしい旅に参加することを切に願って書かれたんだ。

時間や変化という止められないハンマーは、最も牧歌的な風景をガラスの破片や氷の破片のように粉々にしてしまう。

でもボードレールが描くその場所は、こうした破壊から免れているみたい。

ボードレールは『L'invitation au Voyage』の中で、「かの地では、すべてが秩序と美、奢侈、静寂と悦楽そのもの」と書いているんだ。

 

ボードレールが描いた楽園

ボードレールは、自分と恋人を絵に描いたような至福の世界に設定した。

そこは、永遠の祝祭が存在し、希望や自由が歓迎され、気まぐれは決して咎められない、この世の喜びの庭なんだ。

「... 君のほんのわずかな望みを満たさんがため世界の果てからやって来たのだ。沈みゆく陽の光が野を、運河を、街のすべてを、赤紫と黄金色に染める」

ボードレールの詩は、その美しさ、あふれんばかりのロマンチックさから、時代を超えて愛され続けている。


旅するワイン

 

僕はこの詩を読みながら、ワインはボードレールの食卓に欠かせない、この世の快楽のひとつだったに違いないと思ったよ。

そして、ボードレールが語るような限りない喜びと洗練の代名詞としてワインに「美、贅沢、穏やか、官能」を求めるとしたら、それはシャルドネ以外にはないんじゃないかな。

この洗練されたフランスのブドウは、ボードレール自身と同じように、特別な旅人でもあるんだ。

温暖な気候で育つと、パッションフルーツやパイナップル、パパイヤの香りがするし、涼しい気候で育つと、青リンゴやライムのような爽やかな香りが漂うんだ。

じゃあ、シャルドネの一番の特徴であるバターとバニラの香りはどこからくるんだと思う?

それは、時の大海原を駆け抜けるための樽船、ワイン樽から得られるんだよ。

シャルドネ(愛国心のあるフランス人はシャブリとも呼ぶ)は、船に乗って世界を旅する旅人なんだ。

フランスのパリや、フランス領ポリネシア、タヒチなどの暖かい島々を旅し、イブのリンゴ園からの息吹を伝えてくれる。

ボードレールが理想としたように、シャルドネは優しく地球全体を包み込んではいるけれど、王座でふんぞり返ったりはしていないよ。

シャルドネは旅を楽しみ、放浪癖の苦しみに喜びを見出し、その鼓動する心に耳を傾ける。

シャルドネはボードレールと同じく、放蕩息子そのものではなく、放蕩から生まれた天才なんだ。

 

シャルドネが見せてくれる甘い記憶

 

シャルドネは、ボードレールの詩『L'invitation au Voyage』のように、完璧さを達成することは可能だってことを僕たちに優しく教えてくれるんだ。

波がそっと浜辺に打ち寄せるまで、あるいは鳥が飛び立つまでのほんのわずかな時間。

それは一瞬の香りであり、今まで体験したことのない甘い記憶なのに、なぜか懐かしさも感じるよね。

シャルドネは、ボードレールが不完全な世界で完璧を求めるように、航海そのものであり、同時に目的地でもあるんだ。

または、現実から夢への目覚め、つまり人間とブドウの無限の想像力の中ですべてが可能であることを示しているとも言えるかもしれない。

そして、ボードレールの夢の乙女のように、あなたの唇にシャルドネがやわらかな口づけをしたとき。

ボードレールが『L'invitation au Voyage』の最後の行で語っているように、そのとき、その瞬間だけ 「世界は眠りにつく暖かい光のなかで。