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Kichi's Journal吉のワイン⽇記

2024/08/31

キドニツァ 〜「マルメロ」の味わい〜

吉 Kichi

ワインを造り、世界中のワインについて学び、そしてワインをこよなく愛するキツネの吉だよ。
世界中のすばらしいワインをみんなに知って欲しいと思っているんだ!
このブログでは、ブドウやワインのこと、生産国や歴史について、僕が知っているちょっとした豆知識を紹介していくね。

ワインの醸造家
エキスパート
「マルメロ」の味がするブドウ?!「マルメロ」ってなんだっけ?ギリシャの土着品種「キドニツァ」について紹介するよ!

キドニツァとはどんな味わい?

ある日、日本人の友達にワインの味を説明しようとして起きたことを、僕は決して忘れないだろう。

そのとき初めて「マルメロの香り」という表現を使ったんだけど、友人たちの顔に浮かんだきょとんとした表情といったら...。

大慌てで他にふさわしい日本語はないかと頭をフル回転させても、何も思い浮かばない。

その場に漂う気まずい沈黙を考えると数時間にも感じられたけど、実際は数分後に、ようやくポケット翻訳機でカタカナで書かれた「マルメロ」を見つけた。

ああよかった!これを見せれば、きっと理解してもらえるはず。

でも、残念なことにみんなのいぶかし気な表情は少しも変わらなかったんだ。


僕がガッカリしていると、ぞれぞれがポケットを探って携帯電話を取り出し、グーグルで検索し始めた。

「ああ、カリンね!」

肘当てのついたジャケットを着た男性が叫んだ。

みんなは頷き、「ほぉ~!」と低い声で驚きと感心を表してくれた。

でも、その場にいた全員がこの答えに満足したわけではなかったみたい。

物静かで控えめな女性が、みんなが上げる感嘆の声にかき消されながらもこう言ったんだ。

「カリン?カリンには毒があって、漢方薬にしか使われないんじゃないの。」


カリンとマルメロ

あるワインに対して有毒な果実の香りがすると言うのは、あるシーフード料理がざっとしか洗っていないフグのような味がすると言うのと同じことかもしれない。

僕は恥ずかしさのあまり、穴の代わりにデカンタの中に身を縮めて潜り込みたい気分だったよ!

そのとき、あるカップルから突然「なるほどねー!」という声が聞こえたんだ。

もしかすると、みんなが納得するような新たな説明をしてくれるのかもしれない。

僕の期待通り二人は、見た目が似ているため、日本ではカリンとマルメロがよく混同されると解説してくれた。

 

カリンは確かに有毒で、古代中国医学では薬用に使われたと考えられている。

一方でマルメロは、実際に食用にされる果物で、地中海沿岸の食生活ではとっても重要なんだ。

例えばモロッコでは、マルメロをバターでキャラメリゼして、砂糖とシナモンで甘く味付けし、タジンと呼ばれる円錐形の土鍋で子羊の肉と一緒に煮込む料理が有名なんだよ。

カップルがみんなに説明してくれたことで、僕はようやく少し自信を取り戻した。

でも、何週間も後になってある人から、ワインを説明するときに、その場の誰も食べたことのない果実を例に挙げるのは良くないんじゃないか、と指摘されたんだ。

僕もまったく同感だけど、どうかな?


マルメロ味のワイン

じゃあ、次の質問を考えてみよう。

実際にマルメロの味がするワインは、存在するんだろうか?


答えはイエス。そう、それがキドニツァなのさ。

キドニツァは、ギリシャ西部に位置するペロポネソス半島のモネンヴァシアのすぐ北にある、ラコニア地方原産の珍しいブドウ品種なんだ。

キドニツァという名前は、ギリシャ語で「マルメロ」または「小さなマルメロ」を意味する「カイドニ(kydoni)」に由来するという説が一般的だよ。

この語源説が実際に正しいかどうかは、わからない。

言葉の起源はたいていの場合、僕たちが考えている以上に複雑で入り組んでいるものだからね。

でも、キドニツァから造られるワインは本当にカイドニ、つまりマルメロのような味わいなんだから、素敵な偶然の一致だと思わない?


マルメロってどんな味?

ああ、また、日本ではほとんど馴染みのない果実の香りを持つワインを説明するという罠にはまっちゃったみたいだ。

読者のみなさんの頭の中にはきっと、こんな疑問が浮かんでいるよね。

「マルメロってどんな味?」


マルメロの実そのものは、梨と巨大なレモンとリンゴを掛け合わせたような形をしているよ。

でも、リンゴと比較するのはちょっと違う気がする。

だって、もしリンゴの代わりにマルメロが落ちてきたら、アイザック・ニュートンはかの有名な万有引力の法則を見つけられなかったかもしれない!

実際にマルメロを食べてみると、独特の酸味と甘みが口に広がるよ。


実はマルメロは、中世には薬、特に消化器系の治療薬として使われていたんだ。

マルメロは胃の内壁にしわを寄せて食べ物の消化を助けてくれるし、ダイエットをしたいときに食べると食欲がなくなるんだって。

おおっと、余談が多すぎたね!

完熟していないマルメロは、ピリッとした梨とグラニースミス・アップル(オーストラリア原産の酸味の強いリンゴ)を掛け合わせたような味がするよ。

地中海沿岸の国、特にギリシャを旅行することがあれば、ぜひマルメロを試してみてほしいな。


フローラル感あふれるキドニツァ

 

キドニツァのワインは、マルメロの味が特徴的ではあるけれど、実はそれ以上に、柑橘類や白桃のような果物の香りも感じられるんだ。

スパイシーなミネラルの風味があって酸味が強めなので、素晴らしく爽やかな飲み心地だよ。

また、キドニツァはとってもフローラルなワインで、カモミールや甘いジャスミンの香りが口中に広がる。

これが、僕がギリシャワインを大好きな理由のひとつなのさ!

フレッシュで可憐、軽やかで爽やかな香りはギリシャの香りであり、古代から続く永遠の香りでもあるんだ。

キドニツァのワインを飲めば、たちまち気分がリフレッシュして、迷路のようなアゴラやブーゲンビリアに覆われた真っ白な壁を、もう一度サンダルで歩き回ることができるよ。


アスラニス・ワイナリーのキドニツァ

今回GrapeFoxでは、ギリシャの素晴らしい家族経営のワイナリー、アスラニスが造るマケドニアのオーガニック・キドニツァを、特別かつユニークな解釈で紹介するね。

このワインはラコニア産ではなく、テッサロニキに近いネア・ミシャニオナ(Nea Michaniona)産なんだ。

アスラニスのキドニツァは、この希少品種のブドウのベースとなる風味(マルメロや青リンゴなど)を保ちつつ、新たなエレガンスさを付け加え、完璧なバランスで爽やかなミネラルを届けてくれる。

アスラニス・ワイナリーは家族経営で、生産からマーケティング、経理に至るまで、家族のメンバーがそれぞれの役割を担っているんだ。

ネア・ミシャニオナの息をのむような広大な土地に広がる、エステートの個人所有のブドウ畑では、有機栽培が行われているよ。


ラスカリス氏(一家のお父さん)の情熱は、彼らが手掛けるすべてのワインにこめられている。

キドニツァは、彼のワインへの大きな愛が生み出した新しい傑作なんだ。

完熟させたブドウを短い時間で抽出し、数ヶ月にわたって澱との接触による熟成を伴う丁寧な醸造が行われる。

これが、この素晴らしいキドニツァの特徴であるワインの表現力と、ピュアな果実感の理由だよ。


読者のみなさんがマルメロを試す機会がなかったとしても、ぜひアスラニスのキドニツァのおいしさを味わってほしいな。


カンパイ!