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Kichi's Journal吉のワイン⽇記

2024/08/02

気候変動とワインについて〜飲めるうちにワインを楽しむ〜

吉 Kichi

ワインを造り、世界中のワインについて学び、そしてワインをこよなく愛するキツネの吉だよ。
世界中のすばらしいワインをみんなに知って欲しいと思っているんだ!
このブログでは、ブドウやワインのこと、生産国や歴史について、僕が知っているちょっとした豆知識を紹介していくね。

ワインの醸造家
エキスパート

地球温暖化と気候変動が、ワイン業界にどれほどの特別な課題をもたらしているか、僕の考えを書いてみたよ!

ワイン製造史上最大の転換点〜酷暑〜

世界中がまたしても記録的な酷暑を耐え忍んでいる時点で、地球温暖化を抑えることはもはや不可能だということがわかるよね。

地球上の緑が吸収できる二酸化炭素の量や、美しい青い惑星が海を通じて自らを冷やすことができる量を超えてしまってから、ずいぶんと時間が経ってしまった。

これは現実であり、誰もが否定できない現実だと思う。

これが、世界中の 科学者や政治家といったリーダーたちによる意図的な決定の結果だったとしても、もしくは、すべての人類が無力的に石油に依存していることの結果だったとしても、つまりは「鶏が帰巣する時が来た」ということだと思うんだ。

これからは、もうずっときっと暑い。これがワインにとって何を意味すると思う?

結論から言うと、地球の気温上昇はワイン製造史上最大の転換点をもたらす。19世紀中頃のフィロキセラの疫病が世界のブドウ畑に与えた影響を超える大きさでね。

 

地球の気温上昇がワインに与える影響

簡単に言えば、気温上昇はブドウの糖分の蓄積を増加させ、それがワインのアルコール度数を高めるんだ。

最近は、アルコール度数15度を超えるワインも珍しくない。これには、多くのワインメーカーが頭を抱えて、解決策を見つけようと必死なんだ。

例えば、ブドウの収穫を通常より数週間早めることで、日光への露出を減らしたり、 時には涼しい夜間に収穫したり、ブドウを低温で発酵させる「クール発酵」と呼ばれる手法で、酵母の活動や糖分の変換を制限したりしてるんだ。

ブドウを早めに収穫すると、ワインは全体的に酸味が強くボディが少なくなったり、クール発酵は発酵プロセスを大幅に遅らせる可能性があったり、ワイン製造全体に影響を及ぼすんだよ。

このようなワインメーカーの努力や工夫にもかかわらず、ワインはますます濃厚でアルコール度数が高くなっている。そんなワインが好きな方には問題ないかもしれれないけれど、ワインの酸味や新鮮さを好むワインラバーの方には、アルコールのもたらす甘さと重さに抵抗を感じる方もいるんじゃないかな。

 

ブルゴーニュで今起きていること

 

世界の象徴的なワイン産地については、こころが痛むよ。

例えば、ワイン業界の巨人であるフランス。気候や天候パターンの急激な変化が徐々に品質や風味プロファイルを削り取っているんだ。

ブルゴーニュを例にしてみてみよう。

ブルゴーニュのピノ・ノワールは、この地域の本来涼しい大陸性気候のおかげでその繊細さを保っていたんだ。シャルドネも同様で、そうでなければ、その爽やかなクリスプ感は価格に見合うものにはならなかったはずだよ

でも今、ブルゴーニュのワインはより熟した味わいを表現していて、多くの場合、ワイン愛好家たちによって批判されてしまっているんだ。

 

ワインの気候変動への適応については、多くの疑問が浮かぶよ。

高価なワインも影響を受けるの?
特定の国やワイナリーの価値が損なわれてしまう?
より熟したトロピカルな旧世界のワインが新しい標準になるの?

これらの問いに対する答えは、きっと時間が教えてくれるよ。

 

自然とともに生きるワイン

なにもフランスだけで起きていることじゃないんだ。

チリからオーストラリアまで、ほぼすべてのワイン産地がより多くの豪雨やその後の洪水、極端な干ばつ、破壊的な雹、そしてますます不規則な天候に見舞われている。

ここ数年、チリ、カリフォルニア、ポルトガル、オーストラリア、シチリアなどで、何千ヘクタールもの原生林やブドウ畑が、ひどい乾燥による致命的な森林火災に襲われてしまった。ブドウ栽培者がこれほどまでに厳しい状況に直面したことはないんじゃないかな。

それでもいつものように、ワインメーカーたちは最善のワインを提供するために創意工夫を凝らしている。

自然災害に対処するための唯一の答えは、「予測と予防」なんだ。

これは、過去に豪雨や長期の干ばつによって収穫が台無しにされてきたブドウ栽培者たちにとっては、酷暑も自然からのメッセージのひとつ。

過酷な熱を抑えるために、多くのワインメーカーはさらなる手段「 クールクライメイト(冷涼気候)の探求」を模索し始めたんだ!

 

 

山岳地帯と丘陵地帯での勇敢なブドウ栽培

酷暑を避け、冷涼な気候を求めるための一つの方法は、より山岳地帯や高地にブドウを植えることだ。

このようなブドウ栽培は、非常に異なる理由だけれど、実はローマ時代から行われてきたことなんだ。

高地では温度が下がり気圧が低くなるため、空気が膨張して冷却され、植物のストレスが減り、ブドウ内の糖分が少なくなる。

このブドウ栽培は、ギリシャをはじめとした国々で素晴らしい成果を上げている!

実際、GrapeFoxのラインナップである「カナカリスワイナリー」の「10³ マラグジア」は、ペロポネソスの標高1,000メートルで栽培されていて、すばらしい味わいを表現しているよ。

 

標高1,000メートルは、ヨーロッパのワイン畑のなかではかなりの高さなんだ。

この方法が「勇敢」と言えるのは、急な高地のブドウ畑が物流的に非常に不便で、人々や機械に対する身体的な負担も大きいからなんだ。

 

海洋性ブドウ栽培

二つ目の方法は、海や大洋の近くにブドウ畑を植えることだよ。

そうすることで、ブドウが潮風によって涼しく、新鮮に保たれるんだ!

GrapeFoxの「ベリディスワイナリー」は、湖の近くにブドウ畑を持つことで、酷暑の問題を解決しているよ。

 

涼しい風がブドウをゆっくりと冷やし、特に夜間にその効果を発揮するんだ。常に熱を嫌う繊細なブドウ品種、例えばピノ・ノワールにはこれが不可欠だよ。

海水と海風の冷却効果は、自然な海洋海流によってさらに強化されることがあるんだ。

例えば、南極大陸の氷の砂漠から西南アメリカ大陸に向かって冷たい水を運ぶフンボルト海流がそれにあたる。このフンボルト海流によって、 GrapeFoxの「A&Mワイナリー」の「マルベック」が、アルゼンチン・メンドーサ産のマルベックと比較して、ミネラル、塩分、全体的な果実感とまったく異なるものになっているんだよ。

とはいっても、海洋性ブドウ栽培には課題もあるんだ。

例えば、高い湿度に対する真菌防止対策が必要だ。土壌の過剰な塩分も問題で、塩があるとブドウが水分を吸収するのが難しくなる、という点もあるみたいだ。

 

北極と南極 緯度によるブドウ栽培

地球の極地の氷冠は、ゆっくりと後退しているとはいえ、巨大な冷蔵庫と考えることができると思うんだ。

酷暑に絶望する世界中のワインメーカーたちは、数十年前には考えられなかった緯度でブドウを植え始めることに挑戦している。

例えばカナダで、ブリティッシュコロンビア州オカナガンバレーでリースリングが見つかり、ノバスコシアでは寒さに強いオルテガというブドウ品種が栽培されている。

カナダではアイスワインの生産も増えており、これはブドウが自然にビニールで凍ったものから作られる非常に甘いデザートワインなんだ。

北半球のワインメーカーが北に向かって涼しさを求める一方、南半球のワイン製造大国であるチリやアルゼンチンは南の限界に向かっている。

現在では、パタゴニアやチリの断片的な南部地域のいくつかの島々からピノ・ノワールやシャルドネを見つけることができるんだよ。

日本の最北端の島である北海道では、雪に対して非常に強いカベルネ・フランやケルナーといったブドウ品種を見つけるころができるし、さらに日本では、ナイアガラやキャンベル・アーリーといったハイブリッドブドウも開発され、こうした厳しい気候に耐えられるように日々挑戦しているんだ。

一方で、これらの緯度でブドウを植えることは霜のリスクを伴う。

霜は若い芽や新芽を簡単に枯らし、収量を大幅に減少させ、時にはブドウの全体的な構造を損傷する可能性があって、これがブドウ栽培者にとって悪夢のような出来事なんだ。

 

僕がこのブログを書いた意味は、地球温暖化と気候変動がワイン業界にどれほどの特別な課題をもたらしているかを認識するだけでなく、ワインを作るためのますます増える努力と犠牲に対して感謝したいと思ったからなんだ。

世界中のワインメーカーたちは、ワインを表現するために最善を尽くし、僕たちには素晴らしいワインを楽しむ時間がある。

みんなも、お気に入りのワインを楽しむときは、そのボトルが最後のものであるかのように大切に味わってみてね。

気候の終末時計は刻一刻と進んでしまっているから。

今こそ素晴らしいワインを楽しもう!