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Kichi's Journal吉のワイン⽇記

2025/07/29

ビアリッツとバイヨンヌ:サーフィン、スタイル、そしてベル・エポックの華やかさを少し Part 3

吉 Kichi

ワインを造り、世界中のワインについて学び、そしてワインをこよなく愛するキツネの吉だよ。
世界中のすばらしいワインをみんなに知って欲しいと思っているんだ!
このブログでは、ブドウやワインのこと、生産国や歴史について、僕が知っているちょっとした豆知識を紹介していくね。

ワインの醸造家
エキスパート
ビルバオのインダストリアルな魅力を後にして、フランスへと国境を越え、海辺の町ビアリッツに到着しました。ここは、貴族的な優雅さとリラックスしたサーフカルチャーが見事に融合した街です。かつてはひっそ...
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ビルバオのインダストリアルな魅力を後にして、フランスへと国境を越え、海辺の町ビアリッツに到着しました。ここは、貴族的な優雅さとリラックスしたサーフカルチャーが見事に融合した街です。かつてはひっそりとした漁村だったビアリッツですが、19世紀半ばにナポレオン三世の皇后ウジェニーが夏の離宮を建てたことで一躍有名になりました。その宮殿は現在「オテル・デュ・パレ」として高級ホテルとなり、今でも大西洋の荒波を見下ろしています。

 

 

ちなみに豆知識として、ビアリッツは「ヨーロッパにおけるサーフィン発祥の地」とも呼ばれています。1950年代にアメリカ人サーファーたちがこの地にサーフィンを紹介したことがきっかけです。現在では、世界中からサーファーが集まり、国際大会が開かれるサーフィンのメッカとなっています。カリフォルニアやオーストラリアさながらのビーチカフェも立ち並び、洗練された雰囲気を醸し出しています。

 

旅の2日目には、内陸に少し足を延ばして、フランス・バスク地方の文化的中心地、バイヨンヌを訪れました。ビアリッツの風通しの良い華やかさとは対照的に、バイヨンヌは素朴で落ち着いた魅力にあふれ、伝統を誇りに思う地元の人々の温かさが感じられる町です。石畳の路地、木組みの家屋、そしてニーヴ川とアドゥール川の静かな流れが、どこか古き良きヨーロッパを思わせます。

朝はリベルテ広場のカフェでコーヒーを飲みながら、地元の人々が家族のように挨拶を交わす様子をのんびり眺めていました。その後、ワインショップを何軒か訪れ、ボルドーやブルゴーニュの素晴らしいワインを驚くほど手頃な価格で手に入れました。ワインショップの陽気なオーナーは、「モダン・ボルドー」と呼ばれる樽熟成を一切していないフルーティーで飲みやすいワインを10ユーロで勧めてくれました。Z世代向きとのことでしたが、私はそちらは購入せず、以下のような素晴らしいワインを見つけました。

 

 

 

シャトー・クロ・ド・ブアール 2018(モンターニュ・サンテミリオン)

このワインは、サンテミリオンの衛星アペラシオンであるモンターニュ・サンテミリオンに位置し、シャトー・アンジェリュス(プルミエ・グラン・クリュ・クラッセA)の共同オーナーであるユベール・ド・ブアールの娘、コラリー・ド・ブアールによって設立されました。粘土石灰質の土壌を活かし、現代的な醸造技術とテロワールの表現を融合させたワイン造りが特徴です。

 

ブレンド比率: メルロー約85%、カベルネ・フラン10%、カベルネ・ソーヴィニヨン5%

テイスティングノート:

2018年ヴィンテージは、熟したブラックチェリー、カシス、スミレの香りに、ダークチョコレートや石墨のニュアンスが重なります。口当たりは豊かでビロードのように滑らか。プラム、モカ、スパイスの層が広がり、しっかりとしたタンニンが熟成ポテンシャルを感じさせます。フィニッシュには、石灰質土壌由来のミネラル感が残ります。

 

シャトー・ラ・グラス・デュー 2019(サンテミリオン・グラン・クリュ)

シャトー・ラ・グラス・デューは、サンテミリオンにある家族経営の伝統的なシャトーで、メルロー主体のブレンドを生産しています。粘土と石灰質の土壌を活かし、丁寧な畑仕事と控えめな樽熟成がワインの特徴です。

 

ブレンド比率: メルロー90%、カベルネ・フラン10%

テイスティングノート:

ルビーがかった深紅色。チェリーやラズベリーなどの熟した赤系果実に、花の香り、ヴァニラやスパイスの繊細な樽香が重なります。口当たりはミディアムボディで、タンニンは柔らかく酸も爽やか。プラムやラズベリークーリ、ほんのりとした土っぽさがゆっくりと広がり、余韻もなめらかで長め。すぐに飲んでも楽しめますが、数年の熟成でさらに深みが増すでしょう。

 

ドメーヌ・ボナルド 2023(ブルゴーニュ・オート・コート・ド・ニュイ「レ・フランジーヌ」)

ドメーヌ・ボナルドは、ブルゴーニュ地方のヴィレ=ラ=フェイに拠点を置く家族経営のワイナリーです。主にピノ・ノワールで知られるコート・ド・ニュイ地域ですが、この「オート・コート」ではシャルドネを用いた白ワインも生産されています。ドメーヌは持続可能な農法とテロワールの表現を重視しています。

 

品種: シャルドネ100%

テイスティングノート:

淡いストローイエローにわずかに緑がかったハイライト。青リンゴ、レモンの皮、白い花、濡れた石のようなミネラル感のある香り。口当たりはシャープで活き活きとしており、柑橘系や洋ナシの風味に、わずかにクリーミーな質感が調和。フィニッシュは清涼感のあるミネラルで締まり、クリーンで上品な余韻を残します。涼しい気候のブルゴーニュらしい、フレッシュな白ワインの好例です。

 

 

 

バイヨンヌといえば生ハム(そう、バイヨンヌ・ハムは原産地名称保護されています)で有名ですが、実はフランスにおける「チョコレートの首都」とも呼ばれています。17世紀にセファルディ系ユダヤ人がココアの加工技術をこの地に持ち込んだことが始まりです。

歴史的には、バイヨンヌはローマ人、イギリス人、フランス人によって争われてきた戦略的重要都市であり、「バイヨネット(銃剣)」という武器の語源にもなったとされています。そんな穏やかな街が、こんなに勇ましい歴史を秘めているとは驚きです。

翌日、私は東京行きの飛行機に乗り込みました。少し疲れながらも、満ち足りた気持ちと、ほどよく日に焼けた肌。そして心の中には忘れがたい旅の思い出がたっぷりと詰まっていました。眼下に広がる海岸線とぶどう畑のモザイクを最後に見下ろしながら、私は確かに感じていました。スペインとフランス、それぞれがその最上の姿を惜しみなく見せてくれた旅だったと。風の吹きすさぶバスクの崖から、神聖な静寂に包まれたルルドへ。バイヨンヌの賑やかな広場から、サンテミリオンの名高いテロワールへ。まるで歴史と味わいと魂をめぐる、ゆっくりとした優雅なワルツのような旅でした。

 

À la prochaine(また次の旅で)。