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Kichi's Journal吉のワイン⽇記

2023/06/24

カルメネール 〜深紅の仮面に隠された謎〜

吉 Kichi

ワインを造り、世界中のワインについて学び、そしてワインをこよなく愛するキツネの吉だよ。
世界中のすばらしいワインをみんなに知って欲しいと思っているんだ!
このブログでは、ブドウやワインのこと、生産国や歴史について、僕が知っているちょっとした豆知識を紹介していくね。

ワインの醸造家
エキスパート
チリの代表的な品種カルメネール。ヨーロッパでは脇役で絶滅したと思われたカルメネールがどのようにしてチリに根付いたのか、その歴史と特徴を紹介するよ!

その特性の中で一番目立つのは、長年にわたる言葉へのアレルギーだけではない。

大勢の前に引っ張り出されると、それは墨を吐き出すタコのように姿を消してしまうのだ。

それが眠りから覚めるのは、地球が何もかもをおぼろげにする夕暮れに包まれるようになってからだった。

そして、それが隠れ家に戻るのは、いつも夜明けの少し前、最初の雄鶏が鳴く直前だった。

その時初めて、ボクはそれが本当にこの世から姿を消したのだと気づいたのだ。

(吉の手記より抜粋)

 

カルメネールとは

 

カルメネールは、フランス・ボルドー左岸メドック地区原産の黒皮のブドウだよ。名前の由来は、フランス語で真紅を意味する「カルミン」から来ているんだ。

これは、収穫時に葉が燃えるような色に染まるからなんだけど、ブドウの実自体はとても特徴的な深い紫色をしているよ。

カルメネールは、フランスではボルドーワインを造る際のブレンド用ブドウとして使用されてきた。

これは、カルメネールだけを使うと、酸度が低く、雑味の多いワインになりがちだったからだよ。

 

気難し屋のカルメネール

そして、カルメネールは栽培や醸造が難しい品種でもあったんだ。

温暖でない気候で栽培されたり、完熟する数日前に収穫されたりすると、ワインに草のような香りが混じってしまい、飲んだ人が顔をしかめることになっちゃう。

カルメネールに含まれる有機化合物であるピラジンは、ピーマンやハラペーニョに多く含まれていて、これが口当たりを悪くする原因となっているんだ。

 

つまり、カルメネールはフランスのワイン造りにおいては主役のダンサーではなく、ボルドー・ブレンドで脇役に徹していたってこと。

カルメネールに注目する観客はほとんどいなかったと言っても、決して大げさではないんじゃないかな。

フランスの気候がカルメネールにとっては寒すぎて、発芽不良を起こしやすいという事実も、フランスのブドウ栽培者の間で徐々に人気が無くなっていくきっかけとなってしまったみたい。

 

一度は絶滅してしまったカルメネール

 

ところが、カルメネールを愛し、果汁の最後の一滴まで欲しがったヤツがいたんだ。

その正体は...フィロキセラ。 (詳しくはボクの以前のブログ「フィロキセラ:ワインの宿敵」を読んでみてね。)

このブドウの根っこを荒らすにっくきアブラムシは、ワイン界に暗雲をもたらし、ヨーロッパでカルメネールをほぼ絶滅に追いやったんだよ。

それまでも見過ごされがちだったカルメネールは、これで永久に姿を消すことになってしまった。

 

カルメネール、奇跡の復活

時は過ぎ、1993年のこと。フランスの公立モンペリエ大学の主任研究員であるクロード・ヴァラットの教え子、フランス人研究者ジャン・ミシェル・ブルシコは、チリ・カトリック大学の招待によりチリへ行き、ワインセミナーで講演をしていたんだ。

その際、ブルシコはチリのワイン生産者である『ヴィーニャ・カルメン』から、彼らのブドウ畑を見学してブドウのマッピングをしてほしいという依頼を受けたんだって。

ヴィーニャ・カルメンでは、栽培醸造家がブルシコにこう説明した。

「当社カルメンのブドウ畑には、2種類のメルローが植えられています。 『本物のメルロー』と『偽メルロー』です!」

実は、ブルシコの教授であるクロード・ヴァレも、以前チリを訪れた際に同じようなことを聞かされていたみたいなんだ。ただ一つ確かなことは、『偽メルロー』なんてブドウは存在しないはずだということ。

ブルシコはまず、その土地に植えられている『本物のメルロー』とされる樹を特定することから始めた。そして葉の形や花のつき方、実のつき方などから、チリ産の『本物のメルロー』がどのようなものかを特定したんだ。

そして、『偽メルロー』とされている樹に見られた特徴的な美しく鋭い花弁から、それこそがヨーロッパでほとんどが絶滅した『カルメネール』にほかならないという結論に達したんだよ!

 

カルメネールを巡るミステリー

 

でも、多くの謎が残された。

カルメネールはどうやってこんな遠くまでやって来たのだろう?

フィロキセラの魔の手からどうやって逃れたのだろう?

この謎の答えを追いかけている内に、1860年代にフィロキセラがヨーロッパを襲う10年前に、チリのエリートビジネスマンがカルメネールをメルローと間違えて挿し木で輸入していたことが判明したんだ。

チリにとっては、ワイン造りの歴史の中で最高の間違いだと言えるよね。

そしてカルメネールが『カルメン』という名のブドウ畑で再発見されたってことも、まるで言葉の神様のいたずらみたいじゃない?

 

カルメネールは絶滅を免れただけでなく、チリの温暖な気候がカルメネールの生育に理想的だったため、最もふさわしい新天地を見つけたってわけ。

長い間行方不明になっていたブドウが、その栄光と威厳をもって再び姿を現したんだ。

この世紀の大発見を、メディアも大きく取り上げた。

カルメネールは一夜にしてセンセーションを巻き起こし、チリを代表するワイン用ブドウ品種となったんだ。

その後10年間、カルメネールの栽培はチリ全土で爆発的に増え、現在ではチリは世界最大のカルメネール生産国なんだよ。

元々の原産地であるフランスでは、カルメネールを作っているブドウ畑は30ヘクタールもないっていうのにね!

ことわざにもあるように、 まさに「預言者故郷に容れられず」ってこと。

 

おもしろいことに北イタリアでもよく似た話があって、カルメネールがカベルネ・フランと混同されていたんだ。

現在、イタリアではカルメネールのことを「カルメネーロ」と呼んでいるんだよ。

栽培量はチリのものとは比べものにならないけどね。

 

スターリーナイトのカルメネール

なるほど、めでたしめでたし、かもしれない。

でも冒頭でボクが書いているような、このブドウのイヤな面はどうなったの?って声が上がりそうだな。

よくぞ聞いてくれました!

実は、今回とても特別なチリのカルメネールワインをみなさんのために見つけてきたんだ。

このワインは、チリ北部の前砂漠地帯で採れたブドウを使用しているよ。

スターリーナイトのアニタ・アタバレスが、カルメネールの魅力を最大限に引き出すために、見事な手腕を発揮してくれた。

このワインに使用されるカルメネールのブドウは丁寧に手摘みで収穫され、自生発酵で醸造されるんだ。

スターリー・ナイト・カルメネールは、濃厚な赤色で、黒や新鮮な果実のアロマと繊細な花の風味が特徴で、タンニンはまろやかで持続性がある。

 

時代と環境の試練を乗り越えて、カルメネールが今なお健在だってことをこのワインが示してくれているよ。

カルメネールが主役となり、注目のスポットライトを浴びるのは当然のこと。

カルメネールはもはや、深紅の仮面に隠れることはないんだ。