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Kichi’s Universe吉の物語

Chapter 7

吉はそのとき、イースター島の上空を飛行していました。鼻をフサフサの尻尾で包みこんでぐっすりと眠ったあと、吉は誰もいない洞窟で目を覚ましました。しっかりと休んだので、しっぽは完全に力を取り戻し、吉の身体は今までにないほど明るく輝いています。その光は海岸の石でできたモアイ像を明るく照らし、海に反射して水面をキラキラと光らせました。重い雲と月明かりのせいで、水瓶座の姿はどこにも見えません。水瓶座が本当に存在するのか、それとも吉の想像の産物なのか、今となってはそれはどうでもいいことです。水瓶座が助けに来てくれることを、ただ信じるしかないのですから。


そして吉はとうとう、雲の近くまでやってきました。あとはこの雲を陸の方に押しやるだけです。でも、どうやって?そのとき、長老の言葉が詩のように吉の頭の中で鳴り響きました。

「困難に直面し、暗闇と絶望に苦しんでいる時こそ、目を開いて想像力を解放するのじゃ!」

吉はじっくりと考えました。キツネ騎士団の新入である吉は、まだ魔法などの特別な力を持っていませんでした。そのとき、突然あるアイディアが閃きました。解決策は、思ったより身近にあったようです。

「そうだ、この手があった!なんで今まで思いつかなかったんだろう?」

吉はぶ厚い雲のある所まで高く飛びあがると、鼻を西に、しっぽを陸地に向けました。

「よし、今こそ自分の力を証明するときだ!」

吉はそうつぶやき、雲に向かってしっぽをボートのプロペラのように高速で回転させました。しかし、雲は微動だにしません。

「もう一度やってみよう...。もっともっと力を入れなくちゃ!」

吉は自分に言い聞かせました。そして今度は、澄んだターコイズ色の目をしっかりと閉じ、しっぽを力の限り回しました。

が、やはり何も起こりません。短い人生、いえキツネ生の中で初めて、吉は怒りを感じました。今まで経験した多くのイヤなことを思い出したのです。キツネからも人間からも、目の前でドアを閉められたこと。ブドウ畑から追い出されたこと。自分が差し出したワインボトルが目の前で嫌そうに砕かれたこと。森で過ごした孤独な夜。怖くて自分の姿を見せられなかったこと..。


いや!今は違う!あんな日々はもう過去のものなんだ。自分の力を発揮するチャンスを与えられた今こそ、輝くんだ。

おじいちゃんをがっかりさせるもんか。長老とキツネ騎士団をがっかりさせるもんか。みんなをがっかりさせるもんか!

吉は必死でした。

「どんなことをしてでも、雲を届けるんだ!」

吉は生まれて初めて、大きな鳴き声を上げました。今まで一度もそんな風に叫んだこともなく、またそんな叫び声を聞いたこともありませんでした。吉は閉じた目に涙を浮かべ、眉をひそめながらうなりました。そのとき、長老の言葉の力についてのアドバイスと、アクエリアスの想像力についての洞察を思い出したのです。

「できる!僕にはできる!想像するんだ!できるって!想像すれば、叶うんだ!」 

吉は叫びました。

必死でしっぽを動かしている間、吉は後ろを見る余裕がありませんでした。もし振り返っていたら、雲がすごいスピードで動いていることに気づいたことでしょう。雲はまるで磁石に吸い寄せられるように、陸地に近づいています。そんなことを知らない吉は、命がけでしっぽを回転させ続けました。

「雲が動いている!うまくいっているんだ!」

やっと後ろを見た吉は、飛び上がって喜ぼうとしましたが、足に何も触れないことに気が付き、自分が宙に浮いていることを思い出しました。想像していたことがすべて現実になったのです。手前の雲が晴れ始めると、月の光よりも明るい星がいくつも姿を現しました。吉は一瞬、涙で目がかすんでみ間違えたのかと思いました。でも、そうではなかったのです。一番光り輝いているのは、水瓶座でした。必死に動かした雲がちゃんとアンデス山脈に達しているかどうか、吉にはわかるはずもありません。吉は水瓶座がきっと助けてくれると信じることにしました。

「さあ、もっと!」

しかし疲れきった吉は、急速に体力が奪われていくのを感じました。今にも尻尾がちぎれてしまいそうです。吉の高度はどんどん下がりました。まるで、空から降ってくる流れ星のように吉は下降していきます。視界がかすみ、気は遠くなり、もうダメだと感じた瞬間、吉は目にしたのです。洞窟で出会った老人が水のはいった壺をわずかに傾け、大地を生き返らせる姿を。吉は安心したように微笑みそっと目を閉じて、ふわふわとゆっくりと地上へと自分が降りていくのを感じました。

 

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